おととい、文学書道館で開催されている瀬戸内寂聴「美は乱調にあり」展(4月27日~6月9日)を観に行ってきました
「美は乱調にあり」は、瀬戸内寂聴さんが出家する前、
瀬戸内晴美時代に書いた伝記小説で、
大逆事件、日陰茶屋事件、関東大震災時の甘粕事件など、
大杉栄、伊藤野枝、辻潤を中心に大正の激動期をとりあげた作品です。
辻潤は、ダダイズム(虚無を根底に持ち、既成の秩序や常識に否定的な思想)の中心人物として今でも根強いファンがいるほどで、上野高等女学校の英語教師時代に生徒の伊藤野枝と恋愛関係になり、それが問題になって退職、その後、妻になった野枝を青鞜社に入れ、先進的な女性に育てようと、熱心に教育します。
野枝は、平塚らいてうの青鞜社で、結婚制度を否定する論文や貞操など
女性問題に対する多くの評論を発表し、
らいてうが『青鞜』をやめようとした時、その『青鞜』を引き継いだ女性です。
辻との2人目の子どもを妊娠中に大杉栄に惹かれ、辻を捨てて大杉栄といっしょになり、
彼の妻、愛人と四角関係になります。
大杉栄は、アナキズム(国家や権威の存在を有害であると考え、その代わりに国家のない社会またはアナーキーな社会を推進する思想)の社会運動家で、『近代思想』『平民新聞』『文明批評』『労働運動』などの機関紙誌の刊行や編集に関与し、政府と対立。投獄され、出てきてはまた投獄される生活を繰り返します。
フリー・ラブ(自由恋愛)を唱えて妻の保子、愛人の神近市子、伊藤野枝と四角関係になりますが、日陰茶屋事件で神近市子に刺されてその関係はおわり、妻とも別れ、最後は伊藤野枝と共同生活を送ります。 野枝との間に5人の子どもを授かりますが、関東大震災の混乱にまぎれて、野枝と甥の橘宗一と共に憲兵に殺害されます。(甘粕事件)
「美は乱調にあり」は、神近が大杉を刺した日陰茶屋事件まで書かれていて、
1965年に文藝春秋で連載され、翌年刊行されます。
続編「諧調は偽りなり」を16年後の1981年~1983年にかけて再び文藝春秋で連載し、
1984年に刊行しています。
「諧調は偽りなり」のときは、もう出家されていて、
内容も、『美は乱調にあり』を刊行したのち、寂聴さん自身が、その関係者たちと会った話をまじえながら、
日陰茶屋事件、甘粕事件とその後の関係者たちについて書きあげています。
私ももう5年ぐらい前ですが、『美は乱調にあり』と『諧調は偽りなり』を読んで、
政府や世間の弾圧や批判に負けず、理想の社会を目指して自らの意思を貫き通した、
それぞれの生き方にすごみを感じました。
社会や日本史で社会主義運動のころが苦手な人が勉強するのにもお勧めの本です(笑)
一言で言うと、面白いです(^^)
伊藤野枝と辻潤との間に生まれた長男の辻まことは、画家として有名で、
竹久夢二の息子、竹久不二彦と親交があり、
武林イヴォンヌとの間に生まれた子どもを不二彦の養女にしています。
今回の「美は乱調にあり」展では、
不二彦の養女になった竹久野生と、
その父・辻まこと、そして義理の祖父である竹久夢二の絵も展示していました。
竹久野生さんは、30歳になるまで、実の父が辻まことと知らず、
いつも家に遊びにくる陽気なおじさんぐらいに思っていたそうです。
野生さんの絵は、文学書道館だけでなく、
徳島の寂庵である「ナルト・サンガ」でも13日まで個展行脚第六回が開催されていました。
それで、おとといは、文学書道館に行く前に、「ナルト・サンガ」に展示を観に行きました。
行くと、ナルト・サンガの方が親切に案内してくれて、
いろいろと気を配ってくださるので、
こちらも野生さんについて質問していると、
途中で、その方が、野生さんご本人だということが分かり・・・(--;)
失礼なことを言わなかったかと、緊張してしまいました。
もう40年以上コロンビア在住とのことで、
コロンビアの風景を抽象的に描いた絵もいくつかあり、
きれいなブルーが印象的でした。
和紙に油絵の具で描いている作品もあり、
「破れないんですか・・・?」と聞いたところ、
全然破れないとのこと。
全国のいろんな和紙を使われているそうですが、
なかでも、美濃和紙に描いた作品を指されて、
「これなんか、ほんとに薄いんだけど、いくら絵の具を塗り重ねても平気」と言っていました。
余談ですが、以前、前田博史さんという写真家の作品展を観に行ったとき、
その方は、土佐和紙に写真を印刷されていて、
ものすごく優しい、柔らかい作品になっていました。
同じ土佐和紙でも、特殊加工で、キャンバスのように硬いものや
和紙のやわらかさを残したものや、いろんな種類があり、
同じ和紙でもこれほど表情が変るものなんだと思いましたが、
野生さんも、「紙で、色が全然ちがう」と言っていました。
エメラルドグリーンのような、きれいな色があったのですが、
その色は美濃和紙のうすい紙でしか出ない色だと言っていました。
人柄もすごく素敵な方で、
お会いすることができ、本当にうれしかったです。
記念に著書にサインを頂きました(^^)
14時から文学書道館で、寂聴さんと柴門ふみさんの対談があり、
野生さんも、午後から文学書道館へ行くとのことでした。
柴門ふみさんは、徳島出身の漫画家で、
「東京ラブストーリー」や「あすなろ白書」、「小早川伸木の恋」など、
たくさんの作品がドラマ化され、大ヒットしています。
2012年に、徳島市の観光大使に就任していて、
今年は阿波踊りのポスターなど手がけられています。
現在、「オール讀物」に「美は乱調にあり」を漫画化して連載していて、
その原稿も今回の「美は乱調にあり」展で展示されています。
ファンの方には必見です(笑)
登場人物を簡潔に分かりやすく紹介しているうえに、
エピソードも面白くまとめられていました。
対談は、内容が盛りだくさんで楽しかったです。
途中で、観客席にいた竹久野生さんも飛び入り参加して、
終始、和気あいあいとした雰囲気で、
こちらとしては、スリーショットだけでも、すごく貴重なのに、
話も、とても面白かったです
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